top of page

石川県の後継経営者が「会社を守る」と決めたときに問い直したいこと:変えていい形と、変えてはいけないバトン

  • 4 時間前
  • 読了時間: 10分
左に「バトンだけは、変えない」と書かれた紙、右にスーツ姿の人物が光る棒を両手で見つめる工房風の場面


「社員とその家族の生活があるから、この事業はやめられない」


「先代から預かったものを、自分の代で変えていいのだろうか」


「守っているはずなのに、なぜか少しずつ先細っている感覚がある」


石川県で経営をされている方と話していると、この三つが同じ方の口から出てくることがあります。


矛盾しているようで、していません。

守ろうとしている対象が、いつのまにかすり替わっているだけなのだと思います。


この記事でわかること


  • 「会社を守る」と「今の会社の形を守る」がどこで別物になるのか

  • 理念もパーパスもない中小企業に、それでも受け継がれているものの正体

  • AI時代に石川県・金沢の経営者が肌で感じている「速度差」の意味

  • バトンを変えずに形を変えるための3つの問い




「会社を守る」とは、何を守ることなのか


会社を守ることは、経営者の重要な役割です。


ここに議論の余地はありません。社員とその家族の生活があり、取引先との関係があり、顧客からの信頼がある。一つの決断が多くの人に影響する以上、外から気軽に「変えればいい」「壊せばいい」と言える話ではないと、私自身も思っています。


そのうえで、あえて書きます。


会社を守ることと、今の会社の形を守ることが、同じ意味になっていないでしょうか。


今ある部署を残す。

今ある役職を残す。

既存事業を残す。

これまでの顧客構成を守る。

過去に成功した商品や売り方を守る。



それらは一見、会社を守っているように見えます。


周囲からも「雇用を守る立派な経営者」として評価されやすい。


だからこそ、疑いにくいのです。


けれど本来守るべきものは、組織図でも役職でも既存事業でもないはずです。


その会社が何のために存在し、誰にどのような価値を提供するのかという、存在理由の方ではないでしょうか。


そして私がそれに気づいたのは、会社を畳んだ、ずっと後のことでした。




理念もパーパスもなかった。それでも受け継いだものがあった


私は家業の繊維加工会社の3代目として22年間経営に携わり、44歳のときに会社整理という決断をしました。


いま振り返ると、最後の数年で私が必死に守っていたのは、たぶん「形」の方でした。


工場を止めないこと。

取引を切らさないこと。

3代続いた看板を降ろさないこと。


それが会社を守ることだと信じ切っていました。


その後、部下なし係長として会社員から再出発し、5年かけて部長になり、そして改めて自分で起業しました。


そこでようやく、変えてはいけないものが何だったのかがわかったのです。


それは、先代の想いのバトンをつなぐことでした。


ただ、正直に書きます。


私の実家は、田舎の従業員20名ほどの製造業です。


理念もパーパスも、そんな今どきのものは一切ありませんでした。額に入った社訓もない。ミッションステートメントもない。


それでも会社を畳んだあと、私はずっと自分に問いかけ続けていました。


祖父や父には、どんな想いがあったのか。


答え合わせをしてくれる人は、もういません。


それでも考え続けるうちに、少しずつ見えてきたものがありました。


祖父が最後まで手放さなかった工程がある。

父が値段を下げなかった相手がいる。


当時は頑固さや古さに見えていたそれらが、言葉にならないまま握られていた「譲れないもの」だったのだと。


理念という言葉を持っていなかっただけで、想いがなかったわけではないのです。


だから私は、いま石川県の経営者の方とお会いするときに、「御社の理念は何ですか」とは聞きません。


聞くのはこちらです。


先代が、どうしても譲らなかったことは何でしたか。


その答えの中に、たいてい、その会社が本当に守るべきものが入っています。




今の形を守ることが、会社の未来を失わせる理由


パーパスやナラティブという言葉が経営の現場に広がりました。


単なる流行語として消費されている面もあります。


それでも、その会社や組織に属する意味合いがこれまで以上に重視されているのは事実だと感じます。


売上だけを上げ続け、兵隊のように同じことを繰り返す資本主義への違和感が、限界値まできているのではないでしょうか。


若い世代ほど、その違和感に正直です。


そして、ここが肝心なところですが——バトンを守るために、今の形を壊さなければならない場面があるということです。


事業をやめる。

組織を小さくする。

役割を変える。

別の市場へ移る。

経営者自身が役割を譲り、新しい挑戦へ進む。


これらは撤退でも裏切りでもなく、会社を守るための経営だと私は思っています。


形を壊すことと、バトンを落とすことは、まったく別の行為です。


むしろ、形にしがみついたまま会社ごと終わらせてしまうことのほうが、バトンを落とす結果になりかねません。





AI時代に石川県の経営者が感じている「速度差」の正体


同じ商品を、ずっと同じ組織で、今までと同じ会議をしながらつくっている間にも、AIによって能力を拡張した個人や、小さくしなやかな組織は、まったく違う速度で動き始めています。


これまで数十人必要だった仕事を、一人や数人で回す会社が出てきています。


商品開発、情報発信、営業、顧客対応まで。規模の経済が効かない領域が、静かに増えているということです。


金沢をはじめ石川県内のさまざまな企業と仕事をさせていただく中で、AI時代のスピード感はこれまでと圧倒的に違うと実感しています。


何かを決めるだけで2〜3ヶ月待っているうちに、他ではプロジェクトが一つ完了してしまう。


そういう世界線になりました。


「我々には歴史も実績も資金もある」とふんぞり返っていられる時間は、もう長くありません。


生きているうちに産業革命に遭遇してしまった、くらいの感覚で考え方をグレートリセットする必要があると感じています。


過去をすべて否定するという意味ではありません。


むしろ逆で、受け継いだものを次の時代に届けるために、運び方を変えるという話です。


構造そのものが変わってきている。


その危機感を肌で感じ取れているかどうか。分かれ目はそこだと思います。





バトンを変えずに形を変える方法:3つの問い


とはいえ、「形を変えろ」と言われて明日から動ける経営者はいません。


必要なのは決断の勇気より先に、自分が本当は何を受け取ったのかを知る自己理解です。


幸動力コーチングでは、次の3つの問いから入ります。


一つめ。「先代が、どうしても譲らなかったことは何でしたか」


理念を聞くのではありません。


行動を思い出していただきます。


頑固に守っていた工程、断らなかった仕事、値下げしなかった相手。


そこに、言語化されていない判断基準が埋まっています。


それがバトンです。




二つめ。「いま守っているもののうち、10年前になかったものはどれか」


10年前になかったのに今あるものは、変化に応じて生まれたものです。


つまりこの会社は、すでに一度形を変えている。


その事実が、次の変化への心理的なハードルを下げてくれます。



三つめ。「もし今日この会社を新しく立ち上げるなら、同じ形にするか」


ほとんどの方が「しない」と答えます。


ならば、いま守っているその形は、必然ではなく経緯なのだということになります。



この3つの問いは、頭で答えようとするとどうしても優等生の答えが出てきます。


だから私は、レゴ®シリアスプレイ®を活用した研修やセッションの中で、手を動かしながら考えていただくことが多い。言葉より先に本音が出てくるからです。


特に一つめの問いは、先代の姿を作品として組んでいただくと、ご自身でも驚くような答えが出てくることがあります。




事例|金沢の製造業・Aさんが「畳む決断」をした話


金沢市内で製造業を営むAさん(50代・社長/2代目)は、創業から続く主力事業と、10年前に始めた新規事業の両方を抱えていました。


Before。

主力事業は売上の6割を占めるものの、利益率は年々低下。


それでも「先代が立ち上げた事業をやめたら、長く勤めてくれたベテラン社員の居場所もなくなる」という思いから、手をつけられずにいました。


新規事業には可能性を感じながら、人も時間も回せない。


Aさんの口癖は「うちは守るものが多いので」でした。


セッションで一つめの問いを扱ったとき、Aさんはしばらく黙り込んだあと、こうおっしゃいました。「親父が譲らなかったのは、事業じゃなくて、納期でした。どんな無茶な話でも、絶対に遅らせなかった」



After。

年後、Aさんは主力事業の一部を同業他社へ譲渡する決断をしました。


同時に、ベテラン社員には新規事業の品質管理と若手教育という役割を用意しました。


守りたかったのは事業そのものではなく、その社員たちが培ってきた技術と、先代が体現していた「約束を守る」という姿勢だったと気づいたからです。


現在、社員数は減っていません。


売上構成はほぼ入れ替わりました。


Aさんは「会社の形は変わったけれど、親父から預かったものは、むしろはっきりした」と話しています。




信成万事——信じることから、すべては成る。


私はそう解釈しています。受け取ったものを信じられたとき、形を変えることは怖さではなく、選択肢になります。



よくある質問(FAQ)


Q1. 先代がすでに亡くなっていて、想いを確かめようがありません。


私もそうでした。

答え合わせをしてくれる人はいません。それでも、行動の記憶は残っています。何を断り、何を引き受け、どこで折れなかったか。ご家族や古参社員に聞くと、意外な断片が出てくることもあります。想いは、言葉より行動に残るものだと感じています。



Q2. 社員の生活を考えると、事業縮小や組織変更は言い出しにくいのですが。


言い出しにくいのは当然だと思います。

ただ、伝える順番を変えると受け取られ方が変わることがあります。「何をやめるか」から入ると不安が先に立ちますが、「この会社が代々守ってきたものは何か」を共有してから変更を話すと、社員側にも判断の軸が渡ります。石川県の中小企業のように距離の近い組織では、この順番の効果が特に出やすいと感じています。




Q3. 幸動力コーチングは、経営判断そのものにアドバイスをくれるのでしょうか。


正解をお渡しするものではありません。

経営判断の最終責任は経営者にあり、それは動かせないからです。ただ、判断の前提になっている「自分は何を受け取り、何を守りたいのか」を一緒に掘り下げることはできます。前提が変われば、見える選択肢が変わります。正解をもらうより、一緒に考えたいという方に向いている関わり方です。



最後まで読んでくださったあなたへ


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。もし今、


  • 人や組織のことで、ひとりで抱えている悩みがある

  • 頑張っているのに、どこか空回りしている感じがする

  • 「このままでいいのか」と、ふと立ち止まりたくなる瞬間がある


そんな感覚が少しでもあるなら、それは変化のタイミングが近づいているサインかもしれません。


まずは軽く話すだけで大丈夫です。無理な勧誘や売り込みは一切ありません。

「話してみて、違うと思ったらそれでOK」です。


「先代が、どうしても譲らなかったことは何でしたか。その答えを、自社の言葉にしてみたい方へ。」



▶ 人的資本経営|受け継いだものを、次の時代に届ける経営へ守るべきものを「形」ではなく「人と価値」から捉え直す考え方をまとめています。https://www.dekiru-jp.com/jinteki-shihon-keiei


▶ 幸動力コーチング|経営者がひとりで抱えている問いを、一緒に扱うhttps://www.dekiru-jp.com/coaching


株式会社できる 公式サイトhttps://www.dekiru-jp.com



O Sole Mio! いつも心に太陽を!


【著者プロフィール】

幸動力コーチ 杉本 嵩龍(すぎもと たかたつ)株式会社できる 代表取締役

「人と組織が幸せに働き続ける未来をデザインする」をミッションに、脳科学(RAS®)・レゴ®シリアスプレイ®を活用した研修・コーチングを組み合わせた対話と体感を重視した支援を行っています。延べ200社・4,000名以上の経営者・管理職・チームと向き合ってきました。44歳での会社整理という挫折と、ゼロからの再出発を経験したからこそ、経営者の孤独や、決断し続ける苦しさに、きれいごとなく寄り添えます。現在は金沢市山間部・牧山町でヤギと猫に囲まれながら暮らしています。



コメント


bottom of page